異常な歯列と咬合の治療

アイドル歌手や若いタレントに八重歯の目立つ人が多いなと感じられる時代が続いてきました。日本ではいつのころ(おそらく五十年あまりも前)からか、八重歯が可愛らしさとか愛嬌をあらわすものとして受け入れられる風潮があり、それが問題とされることはありませんでした。

しかし、八重歯が人に好感をもって迎えられるのは、十代から二十歳過ぎまでの若い時に限られます。この時期は、全身が若さでキラキラ輝いているからこそ、その中でのちょっとした不調和(欠点)や不安定さが、逆に、相手の心に安心感と寛容さを持たせ、ペットを愛するのと同じような気持ちにさせる時期と言えましょう。したがって、キラキラ輝いている時期を過ぎると、八重歯は決して好ましいものでもなんでもなく、だんだんと感じが悪いものや違和感を与えるものに変わっていきます。

歯並び(歯列)や咬み合わせ(咬合)の異常には色々な種類がありますが、若い一時期の八重歯と、きわめて軽度の出っ歯や受け口の感じ(ただし、いずれも個人の好みによるが)以外、他人に好感を与えるものはありません。

異常な歯列や咬合が歯の健康長寿にとって、どれほど良くないのかという話はここでは省略しますが、いずれにしても、これらは改善(治療)を要することに違いはありません。そこで、歯科矯正治療という手段が登場してくることになります。

  • 異常の種類

ここでは先天異常(奇形)などを除いて、一般的にみられるものだけを取り上げましょう。

■歯並び(歯列)の異常

これは、歯列を歯の咬み合う面からみると分かりやすい異常で、次の3つが挙げられます。

○乱杭歯(叢生歯列)

でたらめに杭を打ち込んだように雑然とした歯列を乱杭歯(らんぐいば)といいます。八重歯もこの一種と言えます。これは、歯の大きさに対して、顎の骨の大きさが小さすぎるときや、乳歯の奥歯の脱落が早すぎて永久大臼歯が前方に移動してしまった時などに見られる現象です。

○すぎ歯(空隙歯列)

隙間がたくさん見られる歯列をすき歯といいます。あごの骨の大きさに対して歯の大きさが小さすぎるとき、舌が歯を強く押す習癖を持っているとき、歯を支えている骨が減ってしまった時などに見られます。

○幅の狭い歯列(狭窄)

歯列弓の全体の長さ(前後径)に対して、著しく横幅(幅径)が小さい歯列を言います。これは遺伝的素因によることが多いのですが、舌の機能が不適切で臼歯部を側方へ押す圧が不十分なときや、舌が小さすぎるときなどにも見られる現象です。

 

■咬み合わせの異常(異常咬合)

歯列に異常があれば、上下の歯の咬合にも当然異常が生じます。しかし、上下の歯列に異常がなくても上下の歯列弓の位置が前後左右にズレたり、上下の歯列弓の形や大きさが異なると咬合は異常になります。これらの不正咬合は、上下の相対応する一、二歯間に限局するものから全体の歯の間に及ぶものまで、多種多様に現れます。

○逆被蓋(反対咬合)

咬み合わせた時、普通、上の歯列を外側から取り囲むように、適度(2~4ミリメートル)の被蓋を持っているのですが、下の歯が外側から上の歯を被蓋している状態を逆被蓋(反対咬合)とよびます。これが前歯の全体、または全ての歯について生じると、いわゆる受け口の状態となります。

○過被蓋(過蓋咬合)

上の歯が下の歯を外側から取り囲んでいる場合でも、被蓋の程度が深くなりすぎた場合を過蓋咬合(かがいこうごう)と呼びます。これが臼歯部で著しい場合には、舌側咬合と

言われることもあります。これらも、上下の単独歯間から全ての歯の間に至る各種のものが見られます。上の前歯群や歯列全体が下のそれらに対して、前方に出すぎている(いわゆる出っ歯)のほとんどの場合にも、このような過蓋咬合が見られ、著しいものでは下の前歯が上の前歯の後ろの歯肉(歯茎)に咬みこんでいます。

○咬み合えない歯(開咬)

下のあごを閉じたとき、後方の大臼歯が咬み合っているのに、それより前の上下の歯が開いたままで、咬み合うこと(咬合接触)ができないものを開咬と呼びます。また、開咬状態が前歯群または臼歯群だけに限られている場合もあります。このような人たちは、下顎を前方に突き出すと、上下の前歯がようやく咬み合える場合と、突き出しても咬み合えない場合とに分かれます。

○横ズレの咬み合わせ(交叉咬合)

自然に咬み合わせているにも関わらず、舌の歯列が上に対して横(側方)にズレている場合を交叉咬合と呼びます。普通、人は誰でも、意識的に下顎を横にズラせて咬み合わせることができますが、この場合は交叉咬合とは言わず、偏心咬合と言います。先に述べましたように、上の歯列は下の歯列を外側から覆うのが普通ですが、交叉咬合とは、歯列のどこかの1カ所または数カ所で連続した複数歯に渡って、下の歯列が上の歯列を外側から覆う状態にあることを表す用語です。

したがって、この用語は、必ずしも上下歯列の横方向のズレのみを表すのではなく、前歯部の反対咬合に対して用いることも可能です。これらは、顎の骨の、形の歪みや上下の配置の不調和によって生じている場合と、単に歯の配列の歪みによる場合とがあります。